溺れる愛
第8章 夏休
学期末テストを翌日に控えた日曜日。
相変わらずの晴天で蒸し暑い中
涼しくて居心地の良い、静かなオープンカフェで
しかめっ面を浮かべた男女が向かい合って
テラス席に座っていた。
『………………』
「………お前、またか…」
『うっ……すみません……』
机に広げたプリントを恨めしく睨む芽依と、
その芽依を呆れた様子で睨む那津。
「はぁー…いいか?ここに来るのは【if】だ。さっきも説明したけど───…」
なんとか理数は、今回のテストの山を張って
乗り越えられそうだったが、今は英語で躓いていた。
「せっかく俺が貴重な時間を割いて教えてやってんだ。舐めた点数とったらどうなるかわかってるよな?」
『はい…それはもう重々心得ております…』
(あーもう!私、どうしてこんなに出来ないの?本当有り得ない…)
「ほら、やり直し。」
『うん…ごめんね…』
しょんぼりとうなだれて謝罪の言葉を口にする。
確かに那津は学校以外の時間、ほぼ毎晩徹夜で
芽依の勉強を見てくれていた。
自分はそんなのしなくても大丈夫だと言っていたが
嘘ではないのが解るところが憎らしい。
だけど、それでも理解の悪い自分が情けなくて
段々と那津にも申し訳なくなってきていた。
「は?何が?」
芽依の言葉に那津はキョトンとした顔で返事をする。
今日は眼鏡をかけていないその瞳は澄んだ薄茶色で綺麗だった。
『本当に…那津の言う通りだから…。
こんなに毎日教えてもらってるのに、私全然出来なくて…』
あの電話の件以来、呼び方が変わった。
特に意識はしていなかったけれど。
「そんなん気にする暇あったらさっさとやれ」
目の前から容赦ない言葉が投げ返される。
『…はい……』
沈んだ気持ちでペンを握ってプリントに目を落とすと
頭に何かが触れた。
『…?』
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