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華のしずく~あなた色に染められて~

第22章 【夕桜~華のしずく~】其の壱~飛花~

「藍丸」
 短くただひと言、昔の名を呼ばれ、時治はハッとして主君を見た。ひたと見据えるその眼差しと眼差しが宙で絡み合い、離れた。
「後は頼む、そちに任せた」
 そのひと言を残し、秀吉は背を向けた。
 時治は唇を噛みしめ、襖を静かに閉めた。
 背後で音もなく襖が閉まる。秀吉は白一色の着流しの姿で寝所の中央へと歩んだ。
「人間わずか五十年、下天のうちを比ぶれば、
夢幻(ゆめまぼろし)の如くなり。ひとたび生を得て、成せぬ者はあるべきか」

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