
禁断兄妹
第71章 君が方舟を降りるなら
タカシ先輩とお兄ちゃんが鉢合わせをした日の翌日
お父さんとお母さんは旅行に出かけた。
その夜に一人でソファで眠ってしまったところで
私の記憶は途切れている。
どうしてその日なのか
深く考えたくないこともあって
理由は今もわからない。
「───お母さん達が旅行に出掛けたのは七月一日だったと思う。その日の夜から記憶が途切れてるの」
「一ノ瀬、俺よく覚えてるんだけど、一ノ瀬はその土日で体調を崩したみたいで、月曜日から三日も学校を休んだんだ」
「えっ」
「あ、確かに萌ちゃんが何日も休んでた日があった!」
「やっと学校に出てきたと思ったら、お別れしてくださいって言われたんだ。何も聞かないでくれって、ごめんなさいって、繰り返すばかりで。
一ノ瀬はそれからしばらくずっと元気がなくて、悩んでる様子で」
熱を帯びていくタカシ先輩の声。
「俺ずっと思ってたんだよ、休んでた間に一ノ瀬に何か大きな出来事があったんじゃないかって。もしかしたら今回の記憶喪失にも、その出来事が関係してるんじゃ───」
「萌ちゃん、大丈夫?具合悪い?」
私はいつの間にか
口元に手を当てていた。
目の前がチカチカ
少しだけ気分が悪い
少しだけ
「ご、ごめん一ノ瀬、俺喋りすぎた、ごめん」
ダイニングの方からガタン、と椅子の動く音がして
見えない位置にいたお兄ちゃんの姿が
視界に入った。
もどかしげな視線
私は首を振った。
「‥‥いえ、大丈夫です、少し混乱してるだけで‥‥」
「あの、口を出してごめんなさいね、ちょっとだけいいかしら」
お母さんが
緊張感の混じる声をあげた。
「色々と落ち着いたら、萌にはもう一度ちゃんと話そうと思っていたんだけど‥‥私と巽さんがその旅行から帰ってきた日に、萌にとても大事な話をしたの」
とても大事な
話‥‥?
「私達家族についての、とっても大事な話を、その日に初めて萌にしたの。お父さんとお母さんと萌と、三人で話したのよ。
その話の後、萌が熱を出してしまったのを私も覚えてるわ」
「‥‥」
「ごめんね萌、どんな話か気になるだろうけど、日を改めてきちんと話すわ。
たかみちゃんもタカシ君もごめんね。二人を信頼してない訳じゃなくて、この場ですぐに話せることじゃないものだから」
