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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第4章 参の巻

「お願いでございます。父の許にお返し下さいませ。屋敷に帰らせて下さい」
 声が、震える。
「どうして、毎日、泣いてばかりいる? ここは、そなたにとって、そんなに厭なところか? そなたの住まうこの梅壺の庭の眺めは後宮の中でも格別だぞ。春には紅白の梅、秋には萩と山吹がそれは見事に咲く。毎日泣き暮らしてばかりいないで、もう少し愉しいことでも考えてみたらどうなのだ?」
 帝は公子の願いに耳を貸そうとはしない。
 公子の眼からとうとう涙が溢れ出した。

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