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さようならも言わずに~恋は夢のように儚く~

第2章 壱

「いつも、その場所に座っているのだな。たまには外に出て気散じでもせぬのか」
 娘が少し躊躇いを見せた後、立ち上がった。
 前後に肩を上下させながら、覚束ない脚取りで歩いてきた娘を見た時、嘉門は己れの無神経さを本気で恨んだ。
 ―娘の右脚が不自由なのは明らかだ。脚を踏み出す度に、右脚を引きずっている。
「ご覧のとおり、脚が不自由なのです」
「す、済まぬ」
 嘉門は更に頬が紅くなるのを自覚した。

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