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来世にて

第3章 前世 女の戦支度

それは、紛れもなく光秀であった。

光秀は顔色ひとつ変えず近づいてくる。
楓は血の気が引くのを感じていた。

光秀だけには、見られたくなかった。
道三からまさぐられ、喜びに鳴く自分の姿など見られるのは耐えられない。
楓は咄嗟に脚を閉じ、襟元を手繰り寄せた。

「いかがした。光秀では不満か?」

「そういうことでは‥」

楓の声は震えていた。

「わしが見ててやるゆえ、安心いたせ。それともいないほうが良いか?」

楓の頬に涙が伝う。
声もなく涙を流す楓を光秀は黙って見つめていた。

楓は慌てて脱いだ着物をはおり、寝所を駆け出していった。

「光秀や。わしは酷なことをしておるかの。」

光秀はそれに答えず、楓が去った方を見つめていた。

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