テキストサイズ

花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第13章 山茶花~さざんか~ 其の参  

 千汐は薄い夜具の中でゆっくりと寝返りを打った。
 表の腰高障子を通して、冬の透明な陽が差し込んでいる。表の長屋前のどぶ板を踏みならす音と共に、子どもたちの歓声が風のように駆け抜けていった。
 あの中には恐らく真平の声も混じっているに相違ない。あの人をせめてもの偲ぶよすがとして、あの男の血を引く子どもに真平という名を付けた。真平の〝真〟は真心を意味している。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ