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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第12章 山茶花~さざんか~ 其の弐 

 自分にひたすら言い聞かせた。
 曽太郞と出逢ってから、しばらく客を取らずに過ごしていたけれど、わずかばかりの蓄えもはや底をついてしまった日。
 千汐は恋しい男の面影を心に秘めたまま、久方ぶりに商売をするために裏店を出た。
 ある夜のことだった。曽太郞と忘れえぬ一夜を過ごしてから、はやひと月が経っていた。
 男はあれから、一度も姿を見せてはいない。しかし、千汐は曽太郞を信じていた。
 所帯を持とうと言ったときの、あの男の瞳にはひとかけらの嘘もなかった。

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