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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第10章 花いかだ 其の参

 店を出て、ほどなくのことだった。後ろから脚音が聞こえてきて、弥助は振り向いた。
 小さな脚音は、思ったとおり、おれんであった。
「どうしたんだ? この分じゃア、冗談じゃなく、本当に雪でも降ってきそうだぜ。早く帰りな」
 和泉橋のたもとに立ち、弥助は空を仰ぐ。
 行きの道程はあれほど琥珀色の月が煌々と輝いていたのに、今は夜も更けて、鈍色の厚い雲が折り重なって空を覆い尽くしている。

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