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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第8章 三つめの恋花  桜いかだ 其の壱 

 弥助は小さくかぶりを振り、グイと盃を煽った。冷えた酒がかえって喉に心地良く、滑り落ちてゆく。
「うちは―娘が難しい年頃でね。情けねえことに、俺は娘の気持ちが今一つ判らねえ」
 言ってしまってから、弥助は、しまったと思った。初対面も同然の人間に内輪のことなど話すべきではない。これでは、まるで愚痴を零しているようなものじゃないか!
 いや、そうではない。そんな綺麗事ではなく、おれんには、この女には何故かあまり妻子のことを語る気にはなれなかったのだ。

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