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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第8章 三つめの恋花  桜いかだ 其の壱 

 おれんの店のことを思い出したのも、そんなときのことだった。
 冬の陽が落ちるのは早い。夕刻、小さなちゃぶ台に向かい合って美空と二人だけの夕飯を取った後、弥助は土間で後片付けをする娘の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
 お静もよくこうやって、忙しそうに立ち働いていた。
 弥助の耳奥で、美空が先刻、言ったばかりの科白がまざまざと甦った。
―おとっつぁん、私ね、内職を始めようかと思うんだけど。

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