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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第1章 恋花(こいばな)一つ目~春の夢~壱

 清七は当惑しながらも、女のしたいようにさせておいた。
 どのような事情があるのかは判らないけれど、この女に到底、ひと言では言い尽くせぬ経緯があることは明白だ。ゆきずりの他人にすぎない清七には何の力になってやることも叶わぬが、せめて今だけは泣きたいだけ泣かせてやりたかった。
 泣くだけ泣いてしまえば、また、明日からは笑って―少なくとも上辺だけは何もなかったような顔で生きてゆけるだろうから。

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