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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第5章 恋花二つ目~恋紫陽花~壱

 お民はそう思いながらも、笑った。
「可愛い女房のために汗水垂らして働いてる亭主のために、腕に寄りをかけて作ったんだよ」
 ちゃぶ台に並んだ心尽くしの夕飯を眺め嬉しげな兵助に、お民は笑いながら言う。
「おい、どこに可愛い女房がいるんだ?」
 兵助は冷やかすような口調で言い、早速箸を取り、鰻をつついている。
「お前さんの眼の前に、ちゃんといるでしょうが。お前さん、歳のせいでいよいよ眼まで悪くなっちまったのかね」

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