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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第20章 番外編第三話【秘恋~背徳の恋~】 睡蓮の池 

 庭には雨に濡れる紫陽花が見えた。紫陽花から少し離れた場所には寺に一本しかない桜の大樹が見える。初夏の今は、鮮やかな緑の葉がしっとりと雨に濡れそぼっている。
 静まり返った部屋に、ひそやかに降る雨の気配だけが響いていた。その雨はまるで光円の心の奥底まで降り込んでくるようであった。
 突如として、織部が光円をひたと見据えた。よく見知る織部とはまるで異なる彼の横顔は、暗い部屋の中でなおいっそう暗い翳りを帯びて、陰鬱な石像のようにも見えた。

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