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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第19章 番外編第三話【秘恋~背徳の恋~】 濁世の花

 光円は男を真っすぐに見つめた。その眼(まなこ)は澄んで、嘘偽りの影はない。正直な男なのだと光円にはひとめで判った。
 一方、男の方は光円にあからさまに見つめられ、ますます紅くなった。光円はけして美人ではないが、色白のふっくらとした面立ちに一切の穢れを知らずに育った心の美しさが滲み出ている。二十二歳という花の盛りの匂うような色香をかえって墨染めの質素な尼姿が引き立てている。しかし、十三から尼寺で暮らした光円に、男の狼狽える原因がそも我が身にあるとは想像もできなかった。

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