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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第18章 番外編第二話【薔薇ものがたり】 薔薇の乙女 

 次の瞬間、伊右衛門は再び頬を張られていた。伊右衛門が転がり、弥生の悲鳴が上がる。
「良い加減にせんか。お前のような男にうちの娘はやらん。弥生、さあ、すぐにわしと帰るんだ」
「いや、伊右衛門さん、伊右衛門さん」
 弥生は徳三郎に引きずられるようにして、連れ出された。伊右衛門の身体は死んだように投げだされたまま動かない。弥生は泣きながら父に連れ帰られた。
うだるような暑い夏の日の午後であった。
降るような蝉時雨が哀しげに響いていた。

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