テキストサイズ

月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

「お嬢さま」
 治助が穏やかな声で言った。その態度は先日とは別人のように落ち着いていて、一人で赤くなったり蒼くなっている自分が馬鹿みたいだと小文は自己嫌悪に陥る。
「逢ってまだ日も経っていないし、私はあなたについて全然知らないけれど。でも、好きなの」
 それでも何か言わなければと懸命に考えたのが、この台詞であった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ