
月琴~つきのこと~
第1章 第一話【宵の月】 一
大番頭の作造は信濃屋の最古参の奉公人だ。当代の惣右衛門より十近く年上で、先代にも可愛がられ、惣右衛門とは兄弟のようにして育ったという。卯之助のような小心者には煙たい存在であった。
「ありがとうございました」
卯之助の姿が見えなくなると、治助がぺこりと頭を下げた。自分よりもはるかに上背のある治助を見上げ、小文は微笑んだ。
「危ないところだったわ。他人(ひと)の悪口を言うのはあまり好きではないのだけれど、あの卯之助さんは執念深い人だから、気をつけた方が良いの。あまり睨まれるようなことはしないでね」
「ありがとうございました」
卯之助の姿が見えなくなると、治助がぺこりと頭を下げた。自分よりもはるかに上背のある治助を見上げ、小文は微笑んだ。
「危ないところだったわ。他人(ひと)の悪口を言うのはあまり好きではないのだけれど、あの卯之助さんは執念深い人だから、気をつけた方が良いの。あまり睨まれるようなことはしないでね」
