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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

「卯之助さん、どうかしたの」
「お嬢さま」
 卯之助が小文を認め、軽く頭を下げた。卯之助は今年二十二になる。信濃屋には丁稚の頃から勤め始め、二年前に手代となった。算盤も出来、商いの才覚はあるが、如才ない性格で自分より立場が上の者には媚びへつらい、下の者には横柄極まりない。小文はあまり好きな類(たぐい)の人間ではない。

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