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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

 可愛らしい黒い瞳に涙をいっぱい溜めて懇願されれば、小文はこの妹の頼みを拒むことができないのだ。何とか高みに花が咲いている枝を一本折って、無事地面まで戻ってくることができた。女中に見つからなかったのは幸運であったと言えよう。見つかったら最後、父に報告され、大目玉を喰らうことになる。
 小文は大切な桜のひと枝をそっと地面に置いて、脚や手についた汚れを井戸水で丁寧に洗った。と、背後で大きな怒鳴り声が聞こえた。

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