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変人を好きになりました

第23章 共犯者の正体

「はあ。日向さんはどうも私のことを空気のように思っているみたいだな」

 同僚たちとのランチから帰ってくると社長室の主人が項垂れていた。
「またですか。あの時は本当にすみませんでした」
 半ばヤケになって謝る。
 ここ毎日のように社長のお小言が降ってくるようになった。それも無理はない。

 社長が車で待っているのを忘れた私はあの日、図書館が閉館する間際まで4人で顔を見合わせてこれからのことについて話し合っていたからだ。
 由佳が私の家の一部屋を借りると言えば他のふたりが猛反対する。空良くんが黒滝さんの最近の奇行についてその危険性と異常性を熱弁しては私と由佳がお腹を抱えて笑う。黒滝さんは居心地が悪いように空良くんを怖い顔で睨みつける。
 そんなこんなしてる間に、社長は痺れを切らせて図書館へ来た。そして、そこで和気藹々と談笑している私たちを見て何かが切れたらしい。

 妹の里香さんとは違って社長の切れ方は液状のマグマのようだった。固まるのが遅くいつまでも流れ続ける。あれから1週間経とうとしているのにまだ根に持っている。なんとも恐ろしい。

「ああ、そうだ。妹のことだがどうやらしばらくの間フィンランドで過ごすみたいだ」
「え?」

 あの騒動があった後、ひっそりと影をひそめていた里香さんは反省したのかしていないのかよく分からない。けれど、あんなにしつこかった里香さんがあれ以来一切連絡を黒滝さんに寄越さない所を見ると黒滝さんのことはあきらめたのかもしれない。
 それが急にフィンランド?

「父がさすがに今回の件で怒ってね。今まで蜜につけこんで煮込んでしまいそうなくらい可愛がっていたことを反省して、しばらく頭を冷やさせようってことらしい」

 なるほど。フィンランドは寒いから。
 何かずれている気もしなくはないが。
 里香さんが本当に幸せになった時に、私は笑顔でお祝いしたいと思う。
 その時にならきっと里香さんももう怒っていないだろう。そう願いたい。
「オーロラ見れるといいですね」
「は?」
「里香さん」
「古都さん‥‥‥」
 北欧ではオーロラが見られることがある。それを思い出して口にしたら社長がなぜか驚いてしまった。
「社長も見たいんですか?」と聞いたら急に今度は笑われてしまった。

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