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変人を好きになりました

第23章 共犯者の正体

「本当のことを言ったらいいのに」

 本当のこと?
 じゃあ、やっぱりさっきのは由佳の本心じゃないの?
 心に一筋の光に似た希望が差し込んだ。手が震える。

「本当のことなんてあんな馬鹿みたいに純粋な子に言えるはずないですよ。気色悪がられるに決まってる。それにたぶんあの子は本当のこと知った方が傷つきます」
「そうかな。古都はああ見えて強いよ」

「あなたが古都の何を知ってるって言うんですっ! 私は、ずっと……ずっと古都を見てたんです。古都にまとわりつく男も全部追い払って、騙されて変な仕事に就こうとするあの子をここで働かせたのも私です。あなたは古都が悲しんでもがいてる間何をしてたんですか? 黒滝さんだってそうです。ずっと見守っていたらしいですけど、実際にあの子の傍にいたのは私。それを後から出てきて古都をさらっていこうとするなんて」

 由佳は何を怒ってるの?
 まるで本当の姉みたい。由佳は本当に私のことを肉親のように思っていてくれたの?
 それならどうしてさっきあんなことを……。

「だからってしていいことと悪いことがある。それに、本当に古都の幸せを願うなら古都から柊一を無理矢理引きはがすなんてしないだろうね。君は自分のものにしたいと思っていただけだよ」
「違う! 私は、自分が古都を幸せにできるなんて思ってなかった。古都の恋人になんてそんなこと望んでたんじゃない。ただ、それ相応の人としか古都をくっつけたくなかったの」

 恋人?

「それ相応ねえ。それってたぶんどこを探してもいないんじゃない? 結局、君は古都を男に近付けたくなかっただけだ」
「私は……っ。あなた古都と一時でも恋人だったんでしょ。古都が他の男を好きだと知ってながら自分のものにしたかったんでしょう。そんな人に偉そうなこと言われたくないわ」
「そうだね。でも、俺はちゃんと古都のことを考えて身を引いたよ。これが君と俺の差だ。さっきだって、本当に古都のことを想っているなら本当のことを話すべきだった」

 すぐ傍で繰り広げられる激しい言い合いに、のろまな脳みそも薄々気づき始めている。
 すぐにここから立ち去るべきだと脳は信号を出すのに足が全く動かない。

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