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変人を好きになりました

第18章 本当の故郷

「ありがとうございます。お返しはなにがいいですか? あ、ルービックキューブとか?」

 私は必死で正方形の塊を捜した。そして出てきたのは面の色をあわせる玩具だけだった。
 クロタキさんが目を見開いてきょとんとした顔をする、ルービックキューブはいらないのかもしれない。

「あれは子供の頃やり飽きた。お返しなんて必要ない」
「でも……」


 私が食い下がるとクロタキさんは考え込むように人差し指と親指で自分の顎を撫でた。探偵みたいな恰好だ。

「じゃあ、料理を作ってもらおうかな。ここに住んでいる間は古都さんが僕の食事の面倒をみてくれる契約だったんだ」

 思いもかけない言葉に私は耳を疑う。料理なんて、人様に振る舞えるほどの腕前じゃないのに。


「私、そんなお料理なんて……」

「大丈夫だ。腕は覚えているだろう。記憶喪失になった人でもそれまでの技術や体を使った動きを覚えている人はたくさんいる。それに、多少いつもの古都さんの味じゃなくたって気にしないし、その時は何が足りなくて多いか口を出させてもらう。それでいいだろう? それと遠近感覚が確かじゃないだろうから僕が材料を切ろう」



 言いくるめられた私はキッチンに立つよりほかなかった。クロタキさんがエプロンをするのを見て頬が緩む。片眼だけでは包丁を扱うには危ないのは確かだ。

「それで、何が食べたいんですか?」

 私が聞くとクロタキさんがなぜかすごく嬉しそうに微笑んだ。優しい笑顔。
 どこかで見たな。と他人事のように思うのと同時にその笑顔が悔しいくらい可愛くて高鳴る胸を押さえつける。


「肉じゃが、コロッケ、カキフライ」


 肉じゃが
 コロッケ
 カキフライ

 なんでこんなちぐはぐな組み合わせのメニューに聞き覚えがあるんだろう。
 ふと空良くんが出て行った玄関を見やる。


「あっ」
 そこにはいつもの冷たい表情ながらどこか嬉しそうなクロタキさんと彼が脱いだコートを手にしている私がいるような気がした。

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