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変人を好きになりました

第18章 本当の故郷

 何も思い出せない私は空良くんが怒気を含めた言いようをしても謝ることも弁解することもできない。
 クロタキさんは瞬きもせず空良くんを凝視している。空良くんが両腕を高く上げて伸びをした。

「それで、柊一の部屋を思い出したの?」
 空良くんは息を鼻からすうっと吐き出すと私に向かいなおった。

「空良くん?」
 なんだかふっきれたような空良くんの様子に驚く。
「もうさっさと思い出しちゃいなよ。そしたらお姫さまと王子さまでハッピーエンドだ」

「空良」
 今度はクロタキさんが空良くんの名前を呼ぶ。その声は驚いているようでも怒っているようでも喜んでいるようにも感じられた。

「なんて言ってもどうしようもないよね。ごめん、古都」

「ごめんなさい……」
 見上げた空良くんの顔が見てられないくらい辛そうで私は視線を足元に落とした。


「古都が謝ることなんて何もないよ。……俺、ちょっと出てくる」

 そう言い残すと空良くんは私たちの返事なんて待たずにさっさと玄関に向かって行った、しばらくして扉の閉まる音がした。


 残された私は呆然と玄関へ続く廊下を見ているとクロタキさんが動く気配がした。
 振り返るとクロタキさんが私のすぐ傍に来ていて心臓がまた飛び出そうになる。
 黙ったままクロタキさんのしなやかな腕が私を包み込んだ。

「えっ」

 驚きの声は静まり返った部屋の中に消えていく。
 クロタキさんの腕が私の後ろ首のあたりでもぞもぞと動く。ぎゅうっと抱きしめるでもなく、何をしているのだろうと不思議に思いながら目にはいるクロタキさんの白い首筋を見つめる。



「首輪だ」
 離れる直前に耳元に口をあてられ囁かれた言葉に下腹部が疼いた。

 私からあっさり離れたクロタキさんの口元には微かに意地悪な笑みが浮かんでいた。意地悪というか、悪戯っ子みたいな無邪気な笑顔だ。

 こんな風にも笑うんだ。

 わずかに重くなった首元に指をはわせると確かに首輪があった。
 顔を下に向けてそれを見る。シルバーチェーンに真四角の立方体が光っていた。直角に尖ったその角が肌をかすめる。

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