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変人を好きになりました

第18章 本当の故郷

「あれ、なんか内装が……」


 長い間眠りについていたみたいに久しぶりに目にする我が家は懐かしい佇まいで以前と変わらずどっしりと都心に構えていた。

 でも、中にはいってみると少し違和感を覚えた。
 悪くない。
 剥げかかっていた壁紙も、きしんでいた床板も、油汚れがこびりついて綺麗にできなくなったキッチンの床や壁だってすべて綺麗になっていた。
 綺麗になっているのに新品のような初々しさはなくて、古いものながらきちんと手入れがされているという印象を与えてくれる。


「僕が手を加えさせてもらった」
 クロタキさんはそういいながら慣れた様子で洗面所に行くと、さっさと手を洗って出てきた。私にもと言うように首を傾げる。

 洗面所もいままでより綺麗になっていて驚く。ここもクロタキさんが? と聞く前にクロタキさんは私の質問を見透かしたようにうなずいた。

「え、でもどうしてですか?」
「なにがだ?」
「どうして、クロタキさんがなおされたんですか? 私が必要だと感じたら業者さんを呼ぶなりしたのに」

 入居者にこんなことさせるなんて私は何を考えていたんだろう。自分のことなのに、自分でしたことが分からないっていうのは困ったものだ。


「僕が勝手にやったんだ」

「柊一がおせっかい焼くなんて気味悪いな」
 空良くんが口をすぼめた。


 小さい深みのある木でできた螺旋階段をぐるりとのぼってクロタキさんが上から顔をのぞかせた。
「僕の部屋はこっちだ」

 私は大家のくせにクロタキさんに案内されるのがおかしくって小さく微笑みながら階段をのぼる。
 クロタキさんの部屋と空良くんの部屋が二階にはあった。部屋数はまだあと3つあるのに2人しか入居していないみたいだ。私はここの収入でどうやって暮らしていたんだろうか。

 それにしてもクロタキさんの部屋はお世辞にも綺麗と言えない。
 変な薬品の匂いが部屋を充満させているし、足の踏み場がないくらい本やら新聞やら、はたまた大量の水槽なんかも置いてある。小さなテーブルの上にも皿が置けないくらいペンや本が散らばっている。
 書斎らしい机の上は実験道具の試験管がその面積の大半を占めていた。
 汚い理科室みたいだと思った。

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