テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第18章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】 祖父の願い

「そんな」
 キョンシルは絶句した。衝撃のあまり、眼の前が真っ白になり、混乱の気持ちが眼尻に涙を押し上げる。
 たった一人の肉親、漸くめぐり逢えた祖父が今また自分を置いて逝こうとしているなんて。
 キョンシルはまだ孝行も何もできていない。家を出た父の代わりに祖父に孝養を尽くそうと考えていたのに、このままでは祖父は一人淋しく逝ってしまう。
「戻ってきて頂けませんでしょうか、お嬢さま」
 馬執事の間延びした顔には懇願の色が浮かんでいる。忠実無比な執事の表情はこれまで見たことがないくらい冴えなかった。祖父の病状が言葉どおり、けして思わしくないことを何より物語っている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ