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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 だからこそ、トスと母が所帯を持ったら、すぐにでも家を出てゆこうとひそかに決めていたのだ。
 トスにとって、キョンシルは永遠に〝ソンニョの残した娘〟なのだ。彼の眼にキョンシルが〝女〟として映ることは恐らく未来永劫ない。何より、キョンシルはトスに疎まれたくなかった。母の恋人である自分をひそかに恋い慕っていたなどと知れば、トスはキョンシルをさぞ軽蔑するに相違ない。
 馬鹿な娘、愚かな女だと蔑まれ疎んじらるよりは、いっそのこと女扱いされずとも、〝子ども〟のままでいる方がはるかにマシだ。
 少なくとも、何も知らない無邪気な子どもを演じている限り、キョンシルはトスの側にいられる。汚いもののように遠ざけられるくらいなら、たとえ心はずたずたに傷ついても、表面だけは笑顔でこの男の側にいる方が良い。

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