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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

「お金? 金は確かにあの巾着の中に入っているとは聞いていたが」
「じゃあ、何で若さまはあの子に巾着を上げたの? あの子がお金がなくて困っているから、上げたのではないのですか?」
 若者は困ったように首を傾げた。
「いや、それは確かにそなたの言うとおり、あの子どもが生活に困っているからこそ盗みを働こうとしたのだと思った、それは事実だが―」
 しどろもどろになり、口ごもった。
「そこまでお考えなのに、何故、若さまが今度は鏡を盗もうとするのですか?」
「鏡を盗む? 私は盗っ人ではないぞ」
 そのときだけ、若者はきりりとした眉をわずかにつり上げた。その心外だという様子から、彼が盗みを心から働く気でなかったのは明白だ。

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