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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第12章 第二話 【はまなすの咲く町から】 心のありか

 原因が原因だけに、トスが処罰を受けることにはならなかった。一応、役所に呼ばれてひととおりの事情聴取は受けたものの、すぐに自由の身となった。むろん、それには重要な証人であるシヨンの証言もあってのことだった。
 事件は不幸な出来事として処理され、人の口の端にのぼることもなく、直に忘れ去られた。しかし、トス自身はけして納得していなかったのだ。事件後、チョンスの年老いた両親は首を括って自死した。チョンスは結婚十数年目にやっと恵まれた一人息子だった。チョンスの母が雨の日も風の日も寺に詣でて子を授かったというのは、町でも有名な話になっていた。

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