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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第12章 第二話 【はまなすの咲く町から】 心のありか

 ある秋の日、シヨンは海辺の寺に詣でた。その帰り道、偶然にもチョンスに再会したのである。二年ぶりに見るチョンスはすっかり様変わりしていた。なかなかの男ぶりで、何より身だしなみを大切にしていた男が無精髭は伸び放題、衣服をだらしなく着崩して真昼間から酒臭い息をまき散らしていた。
 シヨンは幼なじみのあまりの変わり様に愕き哀しみ、一体どうしたのかと訊ねた。すると、チョンスは端正な顔を醜く歪めて言ったのだ。
―ホホウ、お金持ちの若奥さまは、流石にご立派なことをおっしゃる。もっとも、懐に余裕があるからこそ、そんなたいそうなことも言えるんだろうがな。シヨンよ、お前はもう両班ではない。金だけは腐るほどある賤しい商人の妻になり、贅沢な暮らしに溺れて両班の誇りもとっくに失ってしまったのだろう。

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