
喘ぎ声レッスン*SS追加中*
第21章 消えた記憶
「俺…記憶を失ったんですか?」
優が自分の事じゃなくて、他人事のようにポツリと呟いた。
「何か覚えている事はありますか?」
医者が優に聞くと、優は静かに口を開いた。
「覚えているのは…、俺は…」
そこまで言った所で、口を閉ざしてしまう。そして、悲しそうな目で静かに笑った。
「俺、何か大切な事を忘れてしまった気がするんです…。今失ってしまった気がするんです。
なんというかその…、心臓にぽっかり穴があいたような感じ…」
そう言うと、心臓に手を当てた。
あたしは思わず泣きそうになるのを堪えた。今泣いたら、あたしは我慢出来なくなってしまう。
泣いて優に嫌われちゃうかもしれない。優はあたしの事を覚えていないから、初対面同然だ。なのに、そんな理由で嫌われたくない。
