
君の体温は義務だった
第3章 体温
「……大丈夫?」
問いかけると、彼は少しだけ顔を上げた。
自然と俺を見上げる形になる。
その瞳が真っ直ぐに俺を捉えた。
何かを必死に手探りし、確かめようとするような、切ない目だった。
彼は小さく息を吸い込んで、消え入りそうな声で溢した。
「……分かんない。」
その呟きを聞いた瞬間、俺の胸の奥で、カチリと何かの鍵が外れる音がした。
俺にも分からなかった。
ただ、さっきまで腕の中にあった体温が、まだ残っている。
不思議なくらい、嫌じゃなかった。
むしろ——もう一度、抱きしめたいとすら思っていた。
なぜそんな風に思ってしまったのか、自分でも説明がつかない。
普通なら、ここで終わりだ。
ハグは十秒。それがこの制度の絶対的な決まりなのだから。
「……なあ。」
声をかけると、彼が弾かれたように顔を上げた。
「もう一回、いい?」
「……え?」
言葉にしてから、自分でもなんて突拍子もないことを言っているんだと呆れた。
けれど、涙を零したままの彼をこのまま帰してしまうのは、どうしても気が引けたんだ。
「いや……その。」
必死に言い訳を探す。
「まだ落ち着いてないみたいだし。」
彼は戸惑ったようにしばらく俺を見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「……はい。」
今度は、さっきよりも慎重に距離を詰めた。
そっと腕を回す。
再び、華奢な身体が腕の中にすっぽりと収まる。
やっぱり細い。
けれどさっきよりも、少しだけ身体の緊張が解けているのが伝わってきた。
背中越しに感じる呼吸も、徐々に穏やかになっていく。
俺は余計な言葉を挟まず、ただ静かに彼の背中に手を添え続けた。
しばらくして、腕の中でふっと身体の力が抜けた。
そして——彼は、ほんの少しだけ笑った。
「……。」
思わず顔を覗き込む。
さっきまで濡れていた目元は、まだほんのり赤い。
それなのに、その表情は驚くほど柔らかく、儚げに綻んでいた。
こんな顔、するんだ。
そう思った瞬間、胸の奥で心臓がどくんと大きく脈打った。
「……。」
何だ、今の。
ただ彼が笑っただけだ。
それなのに、どうしても目が離せない。
彼は俺の困惑など知る由もなく、安心して身を委ねるようにそっと目を閉じた。
問いかけると、彼は少しだけ顔を上げた。
自然と俺を見上げる形になる。
その瞳が真っ直ぐに俺を捉えた。
何かを必死に手探りし、確かめようとするような、切ない目だった。
彼は小さく息を吸い込んで、消え入りそうな声で溢した。
「……分かんない。」
その呟きを聞いた瞬間、俺の胸の奥で、カチリと何かの鍵が外れる音がした。
俺にも分からなかった。
ただ、さっきまで腕の中にあった体温が、まだ残っている。
不思議なくらい、嫌じゃなかった。
むしろ——もう一度、抱きしめたいとすら思っていた。
なぜそんな風に思ってしまったのか、自分でも説明がつかない。
普通なら、ここで終わりだ。
ハグは十秒。それがこの制度の絶対的な決まりなのだから。
「……なあ。」
声をかけると、彼が弾かれたように顔を上げた。
「もう一回、いい?」
「……え?」
言葉にしてから、自分でもなんて突拍子もないことを言っているんだと呆れた。
けれど、涙を零したままの彼をこのまま帰してしまうのは、どうしても気が引けたんだ。
「いや……その。」
必死に言い訳を探す。
「まだ落ち着いてないみたいだし。」
彼は戸惑ったようにしばらく俺を見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「……はい。」
今度は、さっきよりも慎重に距離を詰めた。
そっと腕を回す。
再び、華奢な身体が腕の中にすっぽりと収まる。
やっぱり細い。
けれどさっきよりも、少しだけ身体の緊張が解けているのが伝わってきた。
背中越しに感じる呼吸も、徐々に穏やかになっていく。
俺は余計な言葉を挟まず、ただ静かに彼の背中に手を添え続けた。
しばらくして、腕の中でふっと身体の力が抜けた。
そして——彼は、ほんの少しだけ笑った。
「……。」
思わず顔を覗き込む。
さっきまで濡れていた目元は、まだほんのり赤い。
それなのに、その表情は驚くほど柔らかく、儚げに綻んでいた。
こんな顔、するんだ。
そう思った瞬間、胸の奥で心臓がどくんと大きく脈打った。
「……。」
何だ、今の。
ただ彼が笑っただけだ。
それなのに、どうしても目が離せない。
彼は俺の困惑など知る由もなく、安心して身を委ねるようにそっと目を閉じた。

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