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背中のチャックを下ろす時…

第1章 背中のチャックを下ろす時…

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「ほ、ほら、今度は、お、下ろせない……かなぁ…なんてさ……」

「……ふぅん…」

「あ…」

「なんて、素敵な屁理屈でしょうね…」

「あ、い、いや…」
 その時、他の住民が、エントランスにやって来た。

「ま、いいわ…」
 わたしは、目で、彼を促し、一緒にエレベーターへ乗る。

「………」

「………」
 二人で無言で、横並びに乗る。

 肩が、微妙に触れた…

「………」

「………」
 前は、手を絡めて乗った――

 チン……

「………」

「………」

 無言で、降り…

「あ、そういえば…」

「え…」

「まだ、鍵持ってるよね」

「あ、うん…」

 ガチャ…
 わたしはドアを開ける。

 そして勝手知ったる彼は、リビングへと向かう…
 その様子に、なんかムカついてしまう――

 だけど、今更、ケンカはしたくない…

「なんか、適当に飲んで…」

「あ、うん…」
 わたしは、部屋へ入り…

「っ………」

 背中に指が、届かない…
 チャックが下ろせない――

「………」

 何を、どうやっても…
 指先が、少し下ろした処から、届かないし、動かせないの――

「痛っ」
 挙げ句には、背中と右肩がつりそうになってしまう。

「ふぅぅ…」
 わたしは、自分のカラダの固さに…
 途方に暮れ、上を向き、ため息を漏らしてしまう…

「あっ」
 その時だった――

「え、あ、や…」

「………」
 突然、彼が…
 後ろから抱き締めてきたのだ――

 背中のチャックが下ろせなく…
 途方に暮れ、ため息を漏らした瞬間の…

「え、や、ん、あぁ…」
 不意なタイミングであった――

 いや、わたしは、完全に彼の存在を忘れていたのである……

「やっぱり…なぁ」

「え、あ…な、なに?」

「いや…ほら……」
 彼はそう呟き、ギュッと抱き締めてくる。

「え、あ、な、な、なに…」

「ほ、ほら、チャックが閉められなかったんだからさぁ…」


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