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春のほどけ…戻れない距離

第2章 「卯月」―揺れと否定

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「あ、ここのサンドイッチ美味しいんですよね」

「…………」

 わたしは、動けない。

「あっ…」

 彼の手が、スッと伸び…

「っ……」

「あ、明るい……毛が………」

 さりげなく、髪に触れ…

 いや…

「あっ……んっ……」

 わたしは、ビクっと震え…

「ふぅん、弥生さんも、耳かぁ……」

 そのメガネの奥が、冷たく凍てくる―――
 
 わたしは…
 
 その目、指から逃げられなかった。

 そして、逸れずに見つめてきて……

「そろそろ、寂しいんじゃないの…」

 と、目が、全身を舐め回してくる。

「別に、オレに遠慮しなくても…
 いつでもめいに、逢いに来てくれて……いいのに………」

「……………」

 その逸らない目が、怖い…

「それに、たまには、ストレス解消しないとね」

「…………」

 すると、スッと顔を耳元に寄せてきて…

「あ、それとも……オレが…………」
 
 そう、囁いてきた。

「っ………」

 わたしは逃げずに、抗いの目を向ける…

 だが、わたしは、彼の、次の言葉に…

 完全に、打ちのめされてしまう。

「弥生さんは……欲しいんだろ……」

「えっ」

「ほら、なんかさ…
 ベッドの下にさ、ピンク色のがあったから……」

「…………」

 言葉を失い、心から、恐怖が沸いてきた。

「あれ………弥生さんのだよねぇ……」

「…………」

「やっぱ、欲しいんだろう……」

 呼吸が荒がり、脚の震えが止まらない。

「あ、そう、弥生さん、今日、早番上がりでしたよねぇ……」

「…………」

「職員駐車場で、隣に寄せて待ってますから……」

 来ますよね―――
 
「…………」

 

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