
ひとつ屋根の下の愛情論
第12章 沈殿する記憶と思い
「秋音――――…」
律夏の声が…低く――――…響く…
誰もいないトイレの個室は…二人っきりなのに何故か寒くて――――…震えが止まらない。
「…ごめ――――…ん…、俺…」
「まだ――――怖いんだな…悪かった…気づけなくて」
そう言うと――――律夏は俺の背中から離れる――――!
違う――――…ヤダ…離れないで…
律夏は大丈夫なんだ…律夏だけは…
そう言いたいのに――――震える俺の体は言うことを聞かない…
振り向きたいのに――――…振り向けない…
違うんだ!律夏は違うんだ!
と、叫びたいのに――――声は出ない。
俺は――――…
律夏の声や指や――――…唇なら…
壊されても…
汚されても…
傷つけられても…
大丈夫なのに――――…
