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今日も明日も

第44章 恋空模様


ピアノを弾く姿は、さっきまでの怯えたものとはうって代わり

少し微笑んだような表情としなやかに動く指に
目が離せなくなった

…名前も知らないこのクラスメイトを、“綺麗“ だと思った

怯えた顔と、驚いた顔と、優しげな顔
いっぺんに知った3つの顔


でもさ

…笑った顔は、どんな感じ?




俺の好きな部分に差し掛かった処で、何となく体を揺らす

それを見た彼は、ちょっとびっくりした顔をしたけど

すぐに俺と同じように体を揺らしながら、まるでピアノが歌っているかのように奏でられた





「…終わったよ?」

静まり返る音楽室

だけど耳の奥には、メロディーが鮮やかに未だに奏でられていて

…生まれて初めて、ピアノの音に感動した



「…ありがと」

伝えたい言葉はたくさん浮かんだけど、どれも俺が言うと嘘臭くて

ただ、弾いてくれたお礼しか言えなかった


「いえ…」
彼が俯き気味に小さく首を振る


「ごめん、名前…聞いてもいいかな
…俺、頭悪いからさ

まだ皆覚えてないんだ」

彼を傷付けないように言葉を選んで


「二宮…和也だよ」

やっと彼に一歩

…近付けた気がした


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