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月琴~つきのこと~

第4章 第二話 【月琴~つきのこと~】 二

 嘉平太の声は酔いなど感じさせないほどに冷え切っていた。庭ですだく虫の音(ね)がすぐ間近で聞こえるような気がする。虫の声が余計に静けさを感じさせた。
「私は家を出て行こうと思います。どこかに家を借りて―」
 が、妙乃はしまいまで言うことができなかった。嘉平太が激しい見幕で叫んだからだ。「そうか、お前までどこかに好きな男をこしらえて、俺から離れていくんだな、妙乃」
「そんな、私はそんなことはしません」

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