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第2章 クラゲ


大倉の出番が終わるのは予定通りなら丁度日付が変わる頃。

本当は日付が変わる前に取りに来たかったがいろいろあって、20分ほど過ぎてしまった。

もしかしたらもう帰ったかもしれない。

そう思いながらも足早に探すふりをしながら楽屋の前まで小走りで向かう。

「熊ちゃん…熊ちゃん…。」

そして、楽屋の前で僕は足を止めた。ドアノブに触れて、開けようとしたとき、中から声が聞こえて手を止めた。

「んんっ…はよ…終わらせて…」

それは、僕が聞いたことのない、甘い声だった。

「…すばるくん?」

「…わ、わかってるわ。」

すばる…くん…。

初日からずっと気にしていた悪夢が扉と通り抜けて見えてしまいそうだ。

「すばっ…くんぅ…はよう…して…焦らさんと いて…」

二人の時間は邪魔しちゃいけない。

だって、僕はただのクラゲだから。

真っ赤な太陽と優しい雲の間を引き裂くことはできない。

ばれないようにゆっくりとドアノブから手を離して、涙すら出ない目を閉じた。

あなたと見つめあうことはできない。

こんなことなら…出会わない方が…。

僕は恋愛成就の願いを込めた熊を置き去りに、家へと帰っていった。

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