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願わくば、いつまでもこのままで

第9章 とまれない、とまらない





少し

少し


たびたび話しながら

家路を2人歩いた。




他愛ない話ばかり。





でもそんなお喋りは久しぶりで

なんだか懐かしくて



とても心地よかった



楽しかった







人の波にもまれながら歩を進める。





横から押されて
陽君にぶつかってしまったり……




「っ、あっ、陽君ごめんなさい」


「いや、俺は大丈夫……」




その拍子に肩と肩との距離が短くなる。





人ごみの中


指の先と先が一瞬触れ合いすぐ離した。






変なの、私

子供じゃないのに



なんだか恥ずかしくて……








続けてまた指が触れると

離そうとした手がギュッと掴まれ

ゆっくり包むように握られた。





思わず顔を上げるが

彼はすでに顔をそらしている。



「……手、冷えるから」と、
ぼそぼそした声がした。




ついクスッと笑ってしまった。

あまりにもとっさに思いついた言い訳が

可愛らしくて





笑いながらも心は動揺していた。


愛しくて、苦しくて、
ときめきのようなものを感じていた。




「手、あったかいよ」





今だけ



時間が止まればいい





そう思った。




本当にそうだったらよかった。




そしたら


あんなことにはならなかった






いや、
そもそも私が悪いんだから




私が陽君に会わなければ

この気持ちを確かめなければ




あんなことには……っ





……




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