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Memory of Night2

第2章 春


 まず、第一に宵の育ての親である志穂(しほ)の結婚。

 宵は十の時に事故で両親を亡くしている。

 その時に親戚がおらず、身よりのなかった宵を引き取ったのが、志穂だった。志穂はそれからずっと、宵の面倒を見ている。

 当時まだ十九だった彼女は生まれつき体が弱く、女手一つで宵を養ってきたことも手伝い、宵が中学二年の頃から入院生活を強いられていた。

 それがようやく、去年の末頃に退院することができ、昔から志穂の主治医を勤めていた矢部弘行(やべひろゆき)と結ばれたのだ。

 第二の原因は、進級。宵と晃は、四月から高校三年生になった。

 クラス替えやら何やら、周りの環境が変わり、そこに馴染むまでにもいろいろと労力を使った。

 そして、最後の理由が、三月の半ば頃から新しく始めたとあるバイト。

 おそらく、これが宵の生活を慌ただしいものに変えてしまった一番の要因だろうと思われた。


(でもま、いいか)


 宵はふうと小さくため息を吐き出した。

 ゆったりとした時間はあまり過ごせなかったけれど、こうして改めて晃との日々を思い返してみると、それはそれなりに幸せだと言えるのかもしれない。

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