テキストサイズ

Memory of Night2

第1章 プロローグ


 ――七年前。

 その日は雨が降っていた。霧のような細い粒が線のように降り注ぎ、酷く視界が悪い。

 住宅街からわずかに外れた人気(ひとけ)のない路上に、人影があった。

 全身を黒いレインコートで覆っていて、その丈は足首ほどもある。

 レインコートは目元に被さり、首には赤いマフラーを巻いていた。

 それが口元を覆っているため、顔はほとんど見えない。

 数日前、一組の夫婦が交通事故で死んだ。その知らせを聞き、レインコートの人物はここへ足を運んだのだ。

 その人物はただ一点を見つめていた。

 視線の先には葬儀場があった。黒い正装に身を包んだ参列者たちが数名、列をなしている。

 葬儀場の入り口には小柄な女性と、十歳ほどの少年がいた。

 おそらく受付をしているのだろう。

 女性といってもまだ若い。

 その容姿から十代半ばだろうと推測できたが、幼さの残る外見に似合わず、表情だけは妙に大人びていた。

 もっと上の年齢にも見える。

 栗色の髪を緩く後ろに束ね、物腰の柔らかな所作で参列者たちに頭を下げていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ