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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠

「どうしたんだ、灯りもつけずに」
 直輝の眼が気遣わしげに紗英子を見ている。ふいに、紗英子の中を烈しい感情が突き抜けた。
「ねえ、どうして天の神さまは私たちに赤ちゃんを与えてくれなかったのかな」
「お前―、まだ、そのことを考えてたのか?」
 直輝にその時、悪気があったとは思えない。しかし、紗英子はどうしても引っかからずにはいられなかった。
「まだ、ですって? 当たり前でしょ。直輝さんの中ではもうとっくに終わったことなんでしょうけど、私はまだ終わったわけじゃないのよ」
「諦め切れない気持ちは判るが―」
「諦める?」
 その何気ないひと言は紗英子の心を真っすぐに射貫いた。
 諦める―? 私は子どもを持つという夢を諦め切れるの?
 自分に問いかけてみる。他人が聞けば、笑うかもしれない。子宮を失ったのだ。諦めたくなくても、諦めざるを得ないだろう。
 何を今更、愚かなことを考えているのだと。
 いいえ、諦めるものですか! 私はけして諦めたりはしない。赤ちゃん、私の赤ちゃん。どうやったら諦められるというのだろう?

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