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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠

「お前、本気なのか? 何もそこまでする必要があるのか?」
「あるわ。私はどんなことがあっても、少しでも可能性がある限り、諦めない。私はもう子宮を失ってしまったけど、まだ卵巣は二つとも健康な状態で正常に機能している。でも、これから年齢が上がるにつれて、卵子の状態だって良くなっていくことはない。ならば、一日でも早く良い状態の卵子を取り出して、あなたの精子と受精させたい。その受精卵を代理母の子宮に戻して無事着床すれば、あなたと私の赤ちゃんが生まれるでしょう」
「俺は反対だ。何もそこまで―天の倫理に逆らってまで、子どもを作る必要はない」
 紗英子はキッとなった。
「何が天の倫理? あなたの言う天の倫理って、なに?」
「紗英子、よく考えてみろよ。赤ん坊ってのは、天の神さまが授けてくれるものなんだぞ。俺は元々、不妊治療そのものに否定的だったんだ。自然にしていれば授かるはずの子どもができないってことは、それが俺らの運命なんだから、残念なことではあるが、それが天の意思なら仕方ない、甘んじて受けるべきだと考えていた。だけど、ずっと子どもが欲しいと願い続けてきたお前があまりに不憫で、見ていられなくて、気が進まないながらも協力してきたんだ。だが、もうこれ以上はご免だ。受精卵を赤の他人の腹に入れて自分の子どもを生ませるだなんて、そんなのはおかしい。間違ってるよ」

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