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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

 光王がゆるりと視線を動かす。
 刹那、そのまなざしに、香花は心まで射貫かれたように思った。
 深い瞳は香花を映しているようで、実のところ、映してはいない。いや、今、この瞬間、光王の眼に周囲の景色は一切映じてはいないだろう。
 静かすぎる瞳は遠い昔を見つめている。香花が知らない光王の過去、光王と彼が愛した女性だけが共有する想い出しか見てはいない。
 光王の手がそろりと伸び、香花の髪を撫でる。
「お前はあいつに似てるな」
 たったわずかなこの科白は、香花に大きな打撃を与えた。いつかも聞いたことのある、この言葉。
―お前、俺が昔、惚れた女に似てるんだ。
 だから、なの? 私があなたの愛している女(ひと)に似ているから、あなたはそんな切なそうな瞳(め)で私を見るの?
 胸が苦しい。まるで呼吸ができないように、心が痛む。この胸の、心の痛みは何なのだろう、どこから来ているのだろう。

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