
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀
香花は人だかりから少し離れている両班のところまで行った。
「旦那(ダーリー)さま、誇り高き両班のお方がこのような町中でまだ幼き子どもに無体を強いるとは到底、考えられないことです。どうか、両班の誇りを自らお捨てになるような大人げないふるまいはお慎みあそばされますように」
つつと進み出た香花が凛然として言うのに、周囲の見物人たちが同調する。
「そうだそうだ、俺たち賤しい者の手本になるのが両班だろう? その誇り高きお偉いさんが呆れるね、男色趣味で、しかも相手はまだ十にも満たない子どもだとよ」
誰かが言い、皆がどっと笑った。
「ええい、娘。言わせておけば、言いたい放題申しおって」
赤ら顔をますます朱に染めて怒り狂う男がふと香花に眼を止めた。
「ホホウ、しかながら、そう申すそなたもなかなか可愛い娘ではないか。ムキになって儂に食ってかかるその様がまた何ともたまらんわい」
男の興味はどうやら、昌福から香花に向いたらしい。いかにも愉快そうに香花を眺めるその眼は、まるでご馳走を前にした犬のように嬉々としている。
「旦那(ダーリー)さま、誇り高き両班のお方がこのような町中でまだ幼き子どもに無体を強いるとは到底、考えられないことです。どうか、両班の誇りを自らお捨てになるような大人げないふるまいはお慎みあそばされますように」
つつと進み出た香花が凛然として言うのに、周囲の見物人たちが同調する。
「そうだそうだ、俺たち賤しい者の手本になるのが両班だろう? その誇り高きお偉いさんが呆れるね、男色趣味で、しかも相手はまだ十にも満たない子どもだとよ」
誰かが言い、皆がどっと笑った。
「ええい、娘。言わせておけば、言いたい放題申しおって」
赤ら顔をますます朱に染めて怒り狂う男がふと香花に眼を止めた。
「ホホウ、しかながら、そう申すそなたもなかなか可愛い娘ではないか。ムキになって儂に食ってかかるその様がまた何ともたまらんわい」
男の興味はどうやら、昌福から香花に向いたらしい。いかにも愉快そうに香花を眺めるその眼は、まるでご馳走を前にした犬のように嬉々としている。
