
精霊と共に 歩睦の物語
第6章 戦いの前に、家族で…
*
「旦那様、景様がお着きです」
躙口(にじりぐち)の外から使用人が声をかける。
「…うむ。入れ…」
中から、男性の声が聞える。
使用人は躙口を静かに開ける。
景は、体をかがめ、何もいわず入室する。
離れは天井が低く、窓からの光も必要最小限に絞られて、伝統的な茶室そのものだった。
「……」
部屋には景の父。土御門 法勝(のりたか)が座っていた。
「………」
景は何もいわず、法勝の前に座る。
三畳ほどの小さな空間に父娘が、何も言わず座っている。
「報告はないか?」
沈黙を破ったのは法勝の方だった。
「…私の口から報告しなくても、全て把握済みでしょ…」
景は、少し下を向いた状態で返答する。
「わしは、お前の口から聞きたい…」
「そうですか…では、二次的発生のワイトを倒しました」
「……」
「ムコウから歩睦に接触してき始めました」
「……」
法勝は何もいわない。
ただ、目をつぶって聞いて居る。
「……」
景は、また何も言わなくなる。
「…景…それだけか?」
法勝が、目を開け景に聞く。
「……はい…」
下を向いた状態で返答する。
「…っふぅー…」
法勝は小さくため息をした。
「のう、景…」
「はい…」
「ワシは、お前の笑顔がみたい」
「え?」
景が顔をあげると、法勝がぎこちなく微笑む。
「お前が、この家に帰ってくるといつも苦しそうな顔をする…お前の笑顔がみたい…あの頃のような…」
「あの頃には、もう、戻れません…」
「そうだな…お前には、辛い現実だった…しかし、梢や信司くんの前では、笑っててくれ」
法勝が悲しそう微笑む。
「お父様…」
景は、どんな表情をしたらいいのか分からないから、下を向く。
「旦那様」
外から声をかけられた。
「ん?どうした」
いつもの法勝にもどる。
「歩睦様達が、お席に着かれました」
「うむ。わかった」
「失礼しました」
使用人がその場からいなくなる。
「では、景。我々もいくか…」
「はい」
