テキストサイズ

精霊と共に 歩睦の物語

第4章 橘様の浴衣の夜会

 夏の暑い日差しからやっと涼しくなっていく。

音楽が流れはじめた。

 橘音頭…小さい時から知っている踊り。
運動会や盆踊りでよく踊るから、練習もしなくて踊れる。
 踊りは音楽にそって、自分の右へ右へと足を進める事から始まる。
 男女で向きが違うので、同じ人とずっと向き合っている事はない。

 歌が始まると、目の前の異性と一緒に簡単な振りの手合わせをする。

 チラリと、柾季を見ると見よう見まねで踊っている。

 遥香と踊る番になった。
 歩睦はニコッと笑って、遥香の手を取る。

 炎を背にした男の子は凛々しく見える。
 炎の光で女の子は輝いて見える。


「遥香…あの計画…実行な…」
 踊りの途中にある場所移動の回転の時に、小声で言う歩睦。

「了解…」
 遥香も小声で答えた。


 この夜会で踊る“橘踊り”は、学校で踊る曲よりもずっと長い本番曲。
 学校では一番の歌詞の部分を主に踊る。
 本番曲は五番まである。


(長い…)
 さすがに、体力のある方の歩睦も疲れてきた。


「!」
 不意にゾクっと寒気を感じた。

 目だけで、周りを確認する。
 踊っている人や、見学の人たちには笑顔がある。

 でも、空気が…匂いが違う。
 歩睦の心がザワザワしている。
 気持ちが悪い。

 涼が公園で倒れていた…あの時の感じと似ている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ