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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第3章 ♣海ほたる舞う夜♣

「悠理さん、子どもがいるの?」
 改めて問われ、彼はひっそりと笑う。
「一応ね。ちゃんと生まれていれば、二人。でも、一人めはもう死んでしまったから、今は一人」
「そうなんだ、悠理さん、奥さんがいたのね」
 眞矢歌の白い面に一瞬、落胆の色が浮かんだように見えたのは思い過ごしなのか?
 こんなときなのに、悠理は歓びに胸が轟いた。慌てて眞矢歌の誤解を解くべく話を続ける。
「ちょっと待って。勝手に思い違いするなよ。俺には嫁さんはいない。以前はいたけど、もういないよ」
「離婚―したの?」
 恐る恐るといった様子で訊ねるのに、彼は首を振った。
「死んだ。交通事故で、車に撥ねられたんだ。妻はその時、妊娠七ヶ月だった」
 ヒュッと眞矢歌の喉が鳴った。愕きのあまり、呼吸ができなくなったらしい。
「ごめん、いきなりな話して。大丈夫?」
 気遣わしげに訊ねると、眞矢歌が弱々しい微笑を浮かべた。
「心配しないで。私なら大丈夫だから」
 小さな息を吐き、眞矢歌が呟いた。
「悠理さんにそんなことがあっただなんて、少しも知らなかった。それなのに、私ったら、自分の話ばかりして、申し訳ないことをしてしまったわ」
 短い沈黙の後、眞矢歌が言った。
「赤ちゃんも?」
「うん、駄目だった。嫁さんの方だけでもせめて助かってくれたら、俺も何とか踏ん張れたんだけど、同時に二人ともなくしちゃったもんで、当時は結構荒れたよ」
「当然だわ。奥さんと赤ちゃんと同時に失ってしまうだなんて。私だったら、きっと気が狂ったかもしれない。悠理さんは強いのね」
 悠理は複雑な想いで眞矢歌を見た。
 そういう、眞矢歌さんこそ俺なんかよりよほど強いじゃないか。声に出して言いたかった。

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