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異種間恋愛

第19章 初めての恋

 そしてなぜか、最後に服をずらし、左肩を確認した。
「はっ」
「……」
 私は思わず声を上げ、ストラスは沈黙したまま鋭い鋭いまなざしを肩にそそぐ。
「広がってる……。もう、呪いが……」
 それだけ言うと、医師は何も見なかったように服を元通りにした。
「あれは?」
「私の口からは申し上げられません。新しい薬を置いて行きますので……。あと、私が診察しにこの部屋に入ったことは誰にも言わないでください」
 医師は眉間に皺を寄せた。
「え、ちょっと……」
 医師は一度ラドゥの苦しんでいる様子を見やり、泣きそうな顔になった後部屋から出て行った。
「ストラ、あれはなんだったの? どうして何も教えてくれなかったの?」
「……僕も不確実な考えを今ここで言うわけにはいかない。ラドゥ様が元気になってから、聞くしかないよ」
 ストラスまで教えてくれないなんて。
 でも、確かに今はそんなことよりもラドゥの体が心配だった。
「わかったわ。ストラ、ありがとう。何かあったら呼ぶからストラは自分の部屋へ戻って」
「僕もここにいるよ」
「だめよ。この我儘王子すぐに拗ねちゃうから」
 私はわざと頬を膨らませて顔をしわくちゃにして見せる。
 ストラスはくすりと笑って、大きなため息をひとつ吐いてから、諦めたように微笑んだ。
「優しいお姫様だね」
 そんな恥ずかしい言葉をさらりと言ってのけてからストラスは自分の部屋へ戻って行った。
 ラドゥの頭を撫で、その手を胸のところまで滑らせると軽く一定のリズムで撫でてやる。
 私が部屋から出て行ったのに気が付いて、追おうとして扉の前で力尽きたのだろう。
 傲慢でプライドが高くて我儘で……それなのに、どうしてこんなに健気なのだろう。
 国の全てを手中に収めようとしている王子がこんなにも孤独で愛に飢えているなんて民は気が付いているだろうか。
 私は民の苦しみだけを考えていたけれど、国を統治する者たちの苦しみなんて考えたことがなかった。
 目の前にいる人を救えないで、どうして大勢の人を救えるというのだろう……。
「ラドゥ、ごめんなさい」
 そういえば、私を襲ったあの日もラドゥはニヤニヤと笑っていたけれど、時折辛そうな顔になっていた。

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