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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第10章 第三話・其の弐

「じゃあ、また」
 誠志郎は藁靴をはき、旅装を整え外に出る。美空もまたその後から、外に出た。一歩戸外に脚を踏み出した途端、凍てついた師走の風が身の傍を駆け抜けてゆく。
 その刹那、誠志郎の眼と、美空の眼が合った。視線が重なり合い、離れてゆく。
 ほんの束の間のことであった。
 物言いたげな男の視線を受け止めかね、美空は顔をうつむけたまま心からの礼を述べる。
「どうか道中お気を付けて」
 深々と頭を下げる美空に、軽く片手を上げ、誠志郎は雪を踏みしめながら去っていった。
 美空は誠志郎の姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。
 降りしきる雪が直に男の後ろ姿を隠す。
 いかほど、そうして立ち尽くしていただろう。美空は、無意識の中に自分の頬を両手で挟んでいた。折角温もりを取り戻していた頬は既にまた冷え切っている。触った手のひらも冷たくかじかんでいた。
―良かった、火に当たったせいで、身体もすっかり温まっている。

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